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OpenAIがコードレッド(非常宣言)を発令―― GoogleとOpenAI、コードレッドが示すAI検索戦争の本質

2025年12月15日

2025年12月2日、The Wall Street Journalは、OpenAIが社内で「コードレッド(非常事態)」を宣言し、ChatGPTの改善を最優先事項として全社的に取り組んでいると報じました。

このニュースは、単なる企業間競争の話ではありません。検索という行為そのものが、いま不可逆的な変化の局面に入っていることを示す出来事です。

The Wall Street Journalは、この動きを次のように伝えています。
「OpenAIのCEOサム・アルトマン氏は、Googleとの競争激化を受け、ChatGPTの改善を目的に従業員に『コードレッド』を宣言した」

ここで注目すべきなのは、「コードレッド」という言葉が選ばれている点です。これは通常、経営判断の中でも極めて例外的で、事業の根幹に関わる危機が生じた場合にのみ使われる内部用語です。OpenAIは、自社の主力プロダクトであるChatGPTが、このままでは検索体験の中心的存在でいられなくなる可能性を、かなり現実的なリスクとして捉え始めていると考えるのが自然でしょう。


実はGoogleも、同じ言葉を使っていた


今回のOpenAIのコードレッドを理解するためには、ひとつ重要な前提があります。それは、この言葉がOpenAIだけに使われたものではない、という点です。

2022年、ChatGPTが急速に注目を集め始めた直後、Googleの経営陣もまた社内で「コードレッド」を発令していました。当時のGoogleは、検索市場で圧倒的な地位を築いていましたが、それでもAIの登場を「通常の競争」ではなく、「非常事態」として扱ったのです。

この事実を時系列で見ると、構図は非常に示唆的です。ChatGPTが登場した直後はGoogleがコードレッドを出し、数年後にはOpenAIが同じ言葉を使っている。つまり、検索体験の主導権が揺らぐ局面では、必ずこの言葉が使われているのです。検索とAIの歴史は、流行の積み重ねではありません。検索体験の「中心」がどこにあるのかが、何度も書き換えられてきた歴史だと言えます。


なぜOpenAIは、いま「コードレッド」を出したのか


The Wall Street Journalの報道から読み取れるのは、OpenAIがGoogleの動きを単なる競合の追い上げとして見ていない、という点です。問題は機能の一部ではありません。応答の質、処理速度、情報の信頼性といった、検索体験そのものの満足度において、ChatGPTの優位性が揺らぎ始めているという認識です。ここで重要なのは、検索の中心がすでに「検索結果の一覧」ではなく、「AIが返す答えそのもの」に移行しつつあるという構造です。

ChatGPTの初期リリース時、Googleはこれまでの検索市場での優位性を失うのではないかと言われました。しかし数年が経ち、今度はOpenAIが、検索体験の主役の座から外れるかもしれない、という危機感を抱き始めています。今回のコードレッドは、その認識が社内で共有された結果だと考えられます。


AI検索は「検索エンジンの進化」ではない


ここで一度、はっきりさせておく必要があります。AI検索は、従来の検索エンジンが少し便利になったものではありません。

これまでの検索では、ユーザーはキーワードを入力し、並んだリンクを比較し、自分で答えを探していました。しかしAI検索では、質問を投げかけると、AIが一つの答えを提示し、そこで体験が完結します。この変化は、検索順位が一つ上下する、といった話とは次元が違います。検索という行為の主役が、人間からAIへと移りつつある、という変化です。


OpenAIが最優先しているものの正体


WSJの報道を読み解くと、OpenAIが今回の局面で最優先しているのは、広告モデルでも新規プロジェクトでもありません。それは、ChatGPTというプロダクトが「信頼される存在であり続けられるかどうか」です。

AI検索では、一度でも「この答えは信用できない」と感じられた瞬間に、ユーザーは別のAIへ移動します。検索体験の中心がAIになるほど、この傾向は強まります。OpenAIは、この現実を正面から受け止め、ChatGPTの利用体験そのものを立て直す必要があると判断したのでしょう。コードレッドという言葉は、その覚悟の表れです。


なぜこの話は、SEO担当者・サイト運営者の未来に影響するのか


ここからが、私たちサイト運営者やSEO担当者にとっての本題です。AI検索が進むにつれて、検索順位を維持しているにもかかわらず、サイトへの訪問が減るという現象が、すでに現場で起き始めています。

また、内容的には十分に価値があるはずの記事が、AIの回答に一切引用されない、という相談も増えています。これは一時的なアルゴリズム変動ではありません。検索体験そのものの構造が変わり、情報の流れ方が変わっている結果です。


AIは「正しさ」だけでサイトを選んでいない


「正しい情報を書いているのに、なぜAIに引用されないのか」
この疑問は、私が現場で最もよく聞くものの一つです。しかしAIは、単に情報が正しいかどうかだけを見ているわけではありません。それ以上に重視しているのは、「誰が、その情報を語っているのか」という点です。これは、Googleが長年重視してきたE-E-A-T(経験・専門性・権威性・信頼性)が、AI検索によってより露骨に表面化した結果だと私は見ています。


「良い記事を書けば評価される」時代が終わった理由


これまでのSEOでは、情報量を増やし、網羅性を高め、丁寧に書くことで評価を得られる場面が多くありました。しかしAI検索では、その前提が崩れ始めています。

AIは、同じテーマについて書かれた複数の良質な記事を、すべて平等に扱うことができません。そのため、「このテーマについて最も信頼できる代表者は誰か」を選びにいきます。この段階で、発信者の背景が見えないサイトや、テーマが散漫なサイトは、どうしても不利になります。


OpenAIのコードレッドが示した「本当の競争軸」


OpenAIがコードレッドを出した理由は、Googleより多くの機能を実装するためではありません。本当の競争軸は、「誰が検索体験の信頼の中心になるのか」です。

OpenAI自身が、AIは信頼されなければ存在価値を失う、という現実を認めたとも言えます。そしてAIが信頼されるためには、信頼できる情報源が不可欠です。つまり、AIに選ばれるかどうかは、すでにサイト運営者側の問題になっています。


SEOは終わらない。ただし、別のものになる


AI検索が進むたびに、「SEOは終わった」という声が必ず出ます。しかし私は、その見方には賛成しません。

SEOは終わりません。ただし、順位を操作する技術から、信頼される存在として設計される活動へと、完全に姿を変えます。GoogleとOpenAI、両方が「コードレッド」を出したという事実は、その変化が一時的な流行ではなく、不可逆な構造変化であることを示しています。


まとめ


AIは、これから評価を始めるわけではありません。すでに、静かに、しかし確実に、「どのサイトを参照するか」「どのサイトを無視するか」を学習し続けています。

OpenAIのコードレッドは、その現実を私たちに突きつけた出来事でした。あなたのサイトは、AIにとって「信頼できる語り手」になれているでしょうか。私は、SEOとAI検索の現場に立つ人間として、この問いを多くのサイト運営者と共有し、これからの答えを一緒に考えていきたいと思っています。

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一般社団法人 全日本SEO協会 代表理事

 鈴木将司

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