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Google CEO サンダー・ピチャイ氏が語る「Gemini 3」とフルスタックAI戦略

2025年12月15日

2025年11月26日、Google/Alphabet CEOのサンダー・ピチャイ氏が、Google DeepMindのローガン・キルパトリック氏がホストを務める番組「Release Notes」に出演しました。テーマは、Gemini 3のローンチを軸に、Googleが進めてきたAI戦略の全体像です。

動画タイトルは「サンダー・ピチャイ氏が語る「Gemini 3」「バイブ・コーディング」とGoogleのフルスタック戦略」
Sundar Pichai: Gemini 3, Vibe Coding and Google's Full Stack Strategy
です。

このインタビューは、新しいAIモデルの紹介にとどまらず、Googleがなぜ今このタイミングで一気にAIを展開し始めたのか、その背景をCEO自身の言葉で語っている点に特徴があります。本記事では、発言の流れを追いながら、私たちサイト運営者に与える影響について考えていきます。


「すべてが一気につながった」――Gemini 3ローンチの手応え


インタビュー冒頭でピチャイ氏は、Gemini 3をはじめとする一連のAIプロダクトのローンチ(公開)について、率直な感情を語っています。
「ここ数週間、ほぼ毎日のように何かを出荷している。それらがすべて一つの流れとしてつながった感覚があり、本当に特別な瞬間だ」
「Google内部で長年積み上げてきた技術や投資が、ようやく「形」として同時に世に出た」

ピチャイ氏は、この点に強い手応えを感じている様子でした。番組ホストのキルパトリック氏も、Gemini 3やNano Banana Proの反響が非常に大きいことに触れ、「この進化の瞬間をどう捉えているか」と問いかけます。


長期視点を貫いてきたGoogleのAI投資


この問いに対し、ピチャイ氏は「この瞬間は、何年も前から続いてきた投資の結果だ」と説明します。Googleでは、短期的な競争に一喜一憂するのではなく、長期的な技術基盤づくりを優先してきたといいます。

その起点として挙げられたのが、2012年のGoogle Brainによる画像認識のブレークスルー、いわゆる「猫の論文」です。
さらに、
・2014年のDeepMind買収
・2016年のAlphaGoの成功
・同じく2016年に発表された初代TPU

といった出来事を振り返りながら、これらがすべて「AIファースト企業への転換」を見据えた布石だったと語ります。「2016年の時点で、次の大きなプラットフォームシフトが来ると確信していた」ピチャイ氏にとって、生成AIの急成長は「突然の出来事」ではなく、想定していた流れが加速した結果だったことがうかがえます。


生成AIが「使われる段階」に入ったという認識


ピチャイ氏は、今回の生成AIブームについて、過去の技術進化との決定的な違いにも触れています。
それは、「ユーザーがすでに使う準備ができていた」という点です。

消費者、開発者、企業――あらゆる層が、生成AIを実用的な技術として受け入れるタイミングが重なった。その結果、GoogleはGeminiを単なる研究プロジェクトではなく、全社的なプロダクトとして本格展開する決断を下したと説明します。

この判断に伴い、Google BrainとDeepMindを統合し、現在の「Google DeepMind」が誕生しました。同時に、データセンター、TPU、GPUなどインフラへの投資も大幅に加速しています。


「外から見ると静かだった」時期の正体


インタビューの中盤で、キルパトリック氏は興味深い指摘をします。それは、「外部から見ると、Googleは一時期静かに見えた」という点です。

これに対しピチャイ氏は、次のように答えています。
「外から見ると、私たちは静かだったり、遅れているように見えたかもしれない。しかし実際には、その間に必要なすべての土台を整えていた」

生成AIブーム初期、Googleは他社に比べて控えめに見えた時期がありました。しかしその裏側では、フルスタックでAIを展開するための準備が進められていた、という説明です。

ここで言うフルスタックとは、AIモデルそのものだけでなく、学習・推論を支える半導体やデータセンターといったインフラ、ソフトウェア基盤、そして検索やYouTubeなどのプロダクトへの組み込みまでを、一体として設計・最適化していく考え方を指します。

そして今、その準備が整い、「出荷フェーズ」に入った――それが、ここ数週間の急激なリリースラッシュにつながっている、というわけです。


Geminiは「検索の新機能」ではないという認識


インタビューの中で、キルパトリック氏はある重要な気づきを語ります。それは、Geminiが単一のプロダクトではなく、Googleのあらゆるサービスを貫く「一本の線」のような存在になっているという点です。

検索、YouTube、Gmail、クラウド、Waymo、さらには開発者向けの環境まで。これまでバラバラに見えていたGoogleのプロダクト群が、Geminiを中心に再び結びつき始めている――そんな印象を受けた、とホストは述べます。

これに対しピチャイ氏は、この指摘に強く同意します。
「Geminiは、AIファースト戦略を最も分かりやすい形で体現している存在だ」

AIファーストという言葉は以前から使われてきましたが、Geminiという「具体的な形」を得たことで、社内外の誰にとっても理解しやすくなった、という認識が示されました。


フルスタック戦略とは何か


ピチャイ氏が繰り返し使う言葉に、「フルスタック」という表現があります。これは単に「全部やる」という意味ではありません。
・モデルそのもの(Gemini)
・それを支えるインフラ(TPU、GPU、データセンター)
・学習・推論の仕組み
・プロダクトへの組み込み
・開発者への提供

これらすべての層を自社で設計し、連動させて改善していくという考え方です。ピチャイ氏は、このフルスタック構造があるからこそ、
「一つの層での改善が、他のすべてに波及する」

と説明します。

たとえば、基盤モデルの事前学習(プレトレーニング)が進化すれば、その効果は検索、生成UI、音楽生成、動画生成など、あらゆるプロダクトに一斉に現れる。それが、今Google内部で起きている現象だと語られます。


Geminiが一気に「同時展開」されている理由


今回のGemini 3のローンチで印象的だったのが、複数のプロダクトで同時に展開された点です。
・検索のAIモード
・生成UI
・開発者向けツール
・音楽・メディア生成

これについてピチャイ氏は、Googleだけでなく、他社も含めた「同時出荷(SIM shipping)」が起きている点に注目します。
「これは、もはや一社だけの話ではない。多くの企業が、同時に同じレイヤーでイノベーションを起こしている」

ここで語られているのは、競争の激しさだけではありません。技術が成熟し、複数のプレイヤーが同時に前進できる段階に入ったという認識です。


Nano Banana Proが象徴する「情報の圧縮」


インタビュー後半で話題に上がるのが、Nano Banana Proです。特に注目されたのが、インフォグラフィック生成の反応でした。インフォグラフィックとは、複雑な情報を図や視覚表現で整理し、短時間で理解できるようにしたコンテンツ形式のことです。

ピチャイ氏は、この反応を見て、過去のPowerPointの歴史を思い出したと語ります。スライドが普及した結果、情報は整理されるどころか、逆に増え続けてしまった。
一方で、Nano Banana Proによるインフォグラフィックは、
「情報を圧縮し、理解しやすい形に変換する」

可能性を示している、と評価します。

情報を増やすのではなく、理解しやすく再構成する方向への進化。これが、今回の生成メディアの大きな特徴だという見方です。


Googleの使命との接続


この点について、キルパトリック氏は「Googleの使命との一致」を指摘します。世界中の情報を整理し、誰もがアクセスできるようにする。インフォグラフィックは、その使命を新しい形で実現する手段になり得る。

興味深いのは、Nano Banana Proのチーム自身も、
「最初からインフォグラフィックを狙っていたわけではない」

と語っていたというエピソードです。

モデルの性能が向上し、テキスト表現能力が高まった結果、自然と「使える形」が見えてきた――それが、今回のブレークスルーだったと説明されます。


創造性を引き出すツールとしてのAI


ピチャイ氏は、生成AIのもう一つの側面として、
「人々の中に眠っていた創造性を引き出している」

という点を挙げます。

これまで、ツールの制約によって表現できなかったアイデアが、AIによって一気に形になる。その結果、「自分は創造的ではない」と思っていた人が、実は多くのアイデアを持っていたことに気づく。

「この現象は、ブログやYouTubeが登場したときと似ている」

とピチャイ氏は語ります。


ピチャイ氏の「成功の測り方」――反応、利用、そして現場感覚


インタビューの中で印象的だったのは、ピチャイ氏が「ローンチの成功をどう測るか」をかなり具体的に語っている点です。

彼は、ローンチ当日はX(旧Twitter)などで一般ユーザーの反応を直接見て、良い点だけではなく、課題や不満点も拾うといいます。必要があれば、社内に改善を促すような形でフィードバックを返すこともある。つまり、CEO自身が「現場の反応」を重要な指標として扱っているわけです。

一方で、当然ながら社内ではダッシュボードで利用状況を追い、QPS(クエリ数/秒)などの指標を見ながら、どの程度使われているのか、容量は足りているのかを確認している様子も語られます。

ピチャイ氏の言葉をまとめると、成功の判断は、オンライン上の反応、社内の計測データ、そして自分の体感――この三つを組み合わせて行う、ということになります。


「Gemini 3はまだ序章」――開発のリズムと次のモデル


キルパトリック氏は、Gemini 3が出たとはいえ、まだロードマップの最初のページに過ぎないと述べます。特に、Flashのような派生モデルがまだ控えていることにも触れます。

これに対しピチャイ氏は、Google DeepMindのチームが一定のリズムで継続的に前進していることを強調します。おおむね半年ごとに大きな節目を作り、進化のフロンティアを押し上げていく、という姿勢です。

また、ここで語られるのは「次はもっとすごい」という話だけではありません。モデルが良くなればなるほど、そこからさらに明確な改善を出すのは難しくなる。それでも進歩を続けること自体が、今のAI開発における醍醐味になっている、という含みもあります。

Flashについては「より多くの人に届ける上で重要だ」という文脈で語られ、性能だけでなく、提供規模や運用面での価値が意識されていることも分かります。


Vibe Codingとは何か――「ソフトウェアを作る力」が広がっていく


インタビュー後半で中心的な話題になるのが、Vibe Codingです。

キルパトリック氏は、Vibe Codingを「ソフトウェアを作る力が、従来のエンジニアだけのものではなくなっていく流れ」として捉えています。これは経済的にも非常に大きな意味を持つ、と彼は言います。ソフトウェア開発が生み出してきた価値は歴史的に見ても巨大であり、その力がより多くの人に開かれていくのは、大きな転換点になる、というわけです。

ピチャイ氏もこの見方に賛同し、過去のインターネットの変化に重ねて語ります。ブログが「書く人」を増やし、YouTubeが「作る人」を増やしたように、AIは「作る」という行為そのものをさらに広げていく。

そして重要なのは、これは社外の話ではなく、すでにGoogle社内でも起きているという点です。ピチャイ氏は、AIツールの普及により、これまでコードを書かなかった人が初めてコード変更(CL)を提出するケースが増えている、と述べます。


コミュニケーション担当が作った「アニメーションHTML」という具体例


このVibe Codingの話で、最も分かりやすい具体例として出てくるのが、社内のコミュニケーションチームの人物が、子どもにスペイン語の活用を教えるために、Gemini 3を使ってアニメーション付きのHTMLページを一発で作ったというエピソードです。

この例が象徴しているのは、「技術的な知識の有無」が壁になりにくくなっていることです。以前なら、こうしたものを作るには、エンジニアに頼むか、相当の学習が必要でした。ところがAIを使えば、思いついた瞬間に「形」にできる。

ピチャイ氏は、こうした変化を「人々が頭の中で思い描いた通りに表現できるツールが、より身近になった」と表現しています。ツールの制約が外れた結果、これまで表に出てこなかった創造性が、次々と表に出てくる。彼はそのことに強い期待を示します。


「今が最悪の状態」――これから必ず良くなるという確信


ピチャイ氏が面白い比喩として挙げるのが、Waymo(自動運転)に対して以前から言ってきた言葉です。
「これは、今がいちばん下手な運転だ。これから良くなるしかない」

彼はこの感覚を、Vibe Codingを含むAIツール全般にも当てはめます。つまり、私たちが今触っているAIは、将来から見れば最も未熟な状態であり、ここから急速に改善していく。この「今が最悪」という言い方は、悲観ではなく、進化の確信を強く表している言葉だと受け取れます。ピチャイ氏は、これからの改善スピードに強い手応えを感じているようです。


次の10年の賭け――AIの次に来るものは何か


インタビューの終盤では、より長期の未来について話が移ります。ピチャイ氏は、10年前の大きな賭けが「AIへのフルスタック投資」だったと振り返ったうえで、同時にGoogleが多角化を進めてきたことにも触れます。

YouTube、クラウド、Waymo。これらはいずれも短期では成果が見えにくい領域ですが、時間をかけて育ててきた。
そして、次の未来の賭けとして挙げられるのが量子コンピュータです。ピチャイ氏は「5年後には量子に対して、今のAIと同じような興奮が生まれているかもしれない」と語ります。

さらに驚きの話として出てくるのが「Project Suncatcher」です。これは、データセンターを宇宙に作るという構想で、現時点ではムーンショット(突飛に見える挑戦)に近いものです。しかしピチャイ氏は、将来必要になる計算資源の規模を考えると、突飛に見える話も次第に現実味を帯びてくる、と説明します。

そして、27のマイルストーンを設定して段階的に進めるという、いかにもGoogleらしい進め方にも触れます。2027年には宇宙空間にTPUがあるかもしれない、という発言は冗談交じりですが、狙いは「計算資源の未来」を遠い視点で考えていることを示すものです。


ピチャイ氏が最後に語った「今後の楽しみ」


最後にピチャイ氏は、ロードマップの話に戻り、Geminiがさまざまなプロダクトに入り続けていくことへの期待を語ります。
Flow、NotebookLMなど、すでにコミュニティが育ち始めているプロダクトにも触れ、ジャーナリストが活用したり、研究用途で使ったりする人が増えていることを評価します。そして「チームはまず少し寝る必要がある」と冗談を言いながらも、全体としては「ここからさらに加速していく」という空気で締めくくられます。


このインタビューを、私はどう受け取ったか


今回のインタビューを通して私が強く感じたのは、Googleが語っているのは「Gemini 3がすごい」という話だけではない、という点です。むしろ重要なのは、AIがGoogleのあらゆるプロダクトに同時に入り込み、しかも改善のテンポが速くなっているという「構造」の話です。

これが意味するところは単純で、AIの影響は「検索」や「広告」や「一部の先進的な分野」に限定されない、ということです。情報発信、コンテンツ制作、ユーザーの理解、比較検討、意思決定――そうした行動の途中にAIが入り、支援し、場合によっては代替する場面が増えます。つまり、サイト運営者が向き合う相手は、従来の「検索エンジン」や「SNSアルゴリズム」だけではなくなっていきます。

もう一つ重要なのは、Vibe Codingの話が象徴している通り、「作る力」が急速に民主化することです。これまで外注や専門職の領域だったものが、一定の品質で誰でも作れるようになります。その結果、世の中にはページも動画も資料も「量」が一段と増える。そうなると、サイト運営者が勝負すべきポイントは、単なる制作力ではなく、何を伝えるのか、なぜそれが必要なのか、誰のどんな課題を解決するのかという設計に戻っていきます。

私は、AI時代ほど「本質的な価値」が問われる時代はないと思っています。技術が進めば進むほど、表面的な差は縮まります。だからこそ、長期的には「誰にとって役に立つのか」「何を信頼の根拠として示せるのか」「なぜその情報を発信するのか」が、サイトの存在意義としてより強く問われるはずです。今回のピチャイ氏の言葉は、その未来が「いつか」ではなく、すでに始まっていることを静かに示していた。私はそう受け取りました。

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