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国内で起きたAI画像活用炎上ニュースから学ぶ ―― なぜ企業はつまずくのか?

2025年12月14日

生成AIは、企業の広告制作やコンテンツ発信の現場に急速に浸透しています。画像制作、コピー作成、アイデア出しなど、これまで人の手で行ってきた作業が、驚くほど短時間で形になるようになりました。
私自身、SEOやWebマーケティングの現場で多くの企業と接していますが、「AIを使うかどうか」ではなく、「AIをどう使うか」が企業の評価を大きく左右する時代に入ったと強く感じています。特にここ数年、日本国内では AIを使ったこと自体ではなく、その使い方が原因で炎上や批判につながった事例 が、実際にニュースとして報じられるようになりました。

私のクライアントとのコンサルティングの現場でも、「AIを使うと叩かれそうで怖い」「何がダメで、何なら許されるのか分からない」という声をよく聞きます。ただ、これまでの炎上事例を冷静に見ていくと、そこにははっきりとした共通点があります。炎上は偶然起きているのではなく、企業側が無自覚のまま踏んでしまう「地雷」があるのです。


事例@ ワコム炎上に見る「ブランドと行動のズレ」


2024年1月、ペンタブレットで知られる株式会社ワコムが、米国法人の公式SNSに投稿した新年ビジュアルをきっかけに、思わぬ批判にさらされました。投稿されたドラゴンのイラストについて、「AI生成画像ではないか」という指摘が相次いだのです。その後、ワコムは画像の使用を停止し、経緯を説明する対応を行いました。

この件で重要なのは、「本当にAI画像だったかどうか」ではありません。問題の本質は、ワコムという企業の立ち位置にありました。

ワコムは、イラストレーター、漫画家、デザイナー、アニメーターなど、「描くことを仕事にする人たち」を長年支えてきた企業です。その企業が、少なくとも「人が描いたとは感じられない」ビジュアルを広告に使ったことで、
「クリエイターの仕事を軽んじているのではないか」
「自分たちの味方だと思っていた企業に裏切られた気がする」

という感情的な反発が生まれたのです。

私はこの事例を見て、AI活用で最も危険なのは技術の問題ではなく、ブランドストーリーとのズレだと改めて感じました。AI画像のクオリティが高いか低いか以前に、
「あなたは誰のための会社なのか」「何を大切にしてきた企業なのか」
そこが行動と一致していないと、ユーザーは非常に敏感に反応します。


事例A JALに起きた「クオリティ軽視」が招いた批判


次に紹介したいのが、日本航空(JAL)の事例です。JALが展開していた、ステータス性の高いクレジットカード関連サイトに掲載されたビジュアルについて、SNS上で「不自然ではないか」という指摘が相次ぎました。

ポップコーンの容器にストローが刺さっている、フォークや小物の形がおかしい、人物の指や持ち物の描写に違和感がある。こうした 生成AI画像特有の「細部のズレ」 が話題となり、批判が広がったのです。結果として、JALは画像を差し替え、謝罪対応を行いました。


このケースで私が強く感じたのは、「AIを使ったから叩かれたのではない」という点です。JALという企業は、安全性、信頼性、ブランド価値を非常に重視される存在です。

しかも、年会費を伴う高価格帯のカードプロモーションでした。その文脈で、
「どこか雑に見える」「チェックが甘そうに見える」

そんな印象を与えてしまったことが、致命的でした。

AI画像は、一見それらしく見える反面、細部の違和感が「企業姿勢そのもの」への不信につながりやすい。これは、私が企業サイトの監修をする際にも、何度も注意しているポイントです。

ここまで2つの事例を見て、私がはっきり感じていることがあります。それは、AI炎上の多くは「AIの失敗」ではなく「企業判断の失敗」だということです。
AIは道具にすぎません。しかし、その道具を「どの文脈で」「誰に向けて」「どんな思想で使うのか」を誤ると、ユーザーは技術ではなく 企業の姿勢 を見て批判します。


「怒り」ではなく「失望」から始まる炎上がある


これまでワコムとJALの事例を通して、AI活用において「ブランドと行動のズレ」や「クオリティ管理の甘さ」が、どれほど強い反発を生むのかを見てきました。今回はもう少し踏み込んで、「人の感情」が直接引き金となった炎上事例を取り上げたいと思います。

AIを巡る炎上というと、著作権や倫理、クリエイター保護といった理屈の話を想像する人が多いかもしれません。しかし実際には、
「なんとなく嫌だ」
「見ていて不安になる」
「がっかりした」

という、言語化しにくい感情が、炎上の起点になるケースも少なくありません。


事例B サクラクレパスに向けられた「裏切られた」という感情


老舗画材メーカーであるサクラクレパスは、海外(スペイン)でのイベントにおいて展示したポスターに、生成AIで作成されたと見られるビジュアルを使用していました。
この事実が明らかになると、日本国内でも批判が広がりました。

批判の内容は、「AIを使ったことが悪い」という単純なものではありません。サクラクレパスという企業は、クレパスや絵の具を通じて、「描くことの楽しさ」「人の手で表現する喜び」を支えてきた存在です。

だからこそ、「その会社が、実際の画材を使わずにAIで作った絵を使うのか」「長年応援してきた気持ちを裏切られたように感じる」という声が生まれました。私自身、このニュースを見たとき、AI活用が「合理的」であればあるほど、ブランドの歴史や文脈と衝突する危険があると強く感じました。

AIは効率的です。しかし、効率だけで選択した行動が、長年積み重ねてきた信頼や共感を一瞬で崩すこともあります。

ここまでの事例を通して、私が思うのは、炎上は必ずしも「怒り」から始まるわけではないということです。
多くの場合、その前段階には、
・期待していたのに、違った
・信頼していたのに、雑に扱われた気がする
・好きだったブランドが、遠くなった気がする

という、静かな失望があります。AIは、その失望を増幅させる装置になりやすい。なぜなら、人はAIに対してではなく、AIを使った「企業の判断」や「姿勢」に反応するからです。


炎上しなかった事例から見える「正しい距離感」


ここまで見てきた、ワコム、JAL、サクラクレパスといった国内事例に共通しているのは、AIの性能や是非そのものよりも、企業の判断や姿勢がユーザーにどう映ったかが評価を分けた点です。では逆に、AIを使いながらも大きな炎上に至らず、比較的好意的に受け止められた事例はないのでしょうか。その代表例として挙げられるのが、伊藤園の取り組みです。


伊藤園「お〜いお茶 カテキン緑茶」のAIタレント起用


伊藤園は、「お〜いお茶 カテキン緑茶」のプロモーションにおいて、AIタレントを起用したビジュアル表現を行い、話題になりました。一部では議論も起きましたが、ワコムやサクラクレパスのような強い炎上には発展していません。

この事例が比較的受け入れられた理由は、非常に分かりやすいと私は感じています。伊藤園は、「人間のモデルやタレントの代替」としてAIを使ったのではなく、「未来」「健康」「テクノロジー」といった抽象的な世界観を表現するための存在としてAIを使いました。

つまり、誰かの仕事を奪ったようにも見えず、誰かの努力を軽んじたようにも映らなかった。さらに、全体のクオリティが高く、「雑にAIを使った」「手を抜いた」という印象を与えなかったことも大きかったと思います。


炎上する企業と、炎上しない企業の決定的な違い


ここまでの事例を並べてみると、炎上するかどうかを分けるポイントは、実はとてもシンプルです。それは、「AIを使った理由を、自分たちの言葉で説明できるかどうか」に尽きると、私は考えています。

ワコムやサクラクレパスの事例では、ユーザー側から見て、「なぜそこでAIを使ったのか分からない」「その選択は、あなたたちの歴史と合っていないのではないか」という疑問が生まれました。

一方、伊藤園の事例では、「なるほど、そういう表現だからAIなのか」と、見る側が納得できる余地があった。この差は非常に大きいのです。


AIは「使うかどうか」ではなく「どう説明できるか」


私自身、SEOやWebマーケティング、そして最近ではAI検索(AIO)の文脈で、多くの企業の相談に関わってきました。その中で、今はっきりと言えるのは、AI活用の成否は、技術力ではなく「思想」で決まる時代に入ったということです。

AIは便利です。早いし、安いし、それなりの形をすぐに出してくれます。しかし、その「それなり」をそのまま世に出すと、ユーザーは必ずこう感じます。
「雑に扱われているのではないか」
「この会社は、私たちをどう見ているのだろう」

AIが炎上を生むのではありません。AIを使って楽をしようとしたように「見えてしまう判断」が、炎上を生むのです。だからこそ私は、企業に対していつもこうお伝えしています。AIを使う前に、
「なぜ今、これにAIを使うのか」
「その理由を、ユーザーに説明できるか」

を、必ず自問してください、と。


これからAIを使う企業が注意すべきこと


AIは、使い方次第で信頼を一瞬で失わせる道具にも、ブランドを一段引き上げる道具にもなります。

重要なのは、AIを「魔法の道具」として扱わないことです。AIはあくまで、企業の思想や価値観を拡張するための補助線にすぎません。その補助線が、これまで描いてきたブランドストーリーと噛み合っているのか。それとも、知らないうちに線を壊してしまっていないか。

今回紹介した国内事例は、これからAIを使うすべての企業にとって、非常に現実的なヒントになるはずです。ぜひ一度、「自社がAIを使う意味」を、言葉にしてみてください。
そこから、炎上しないAI活用は始まります。

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一般社団法人 全日本SEO協会 代表理事

 鈴木将司

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