Googleが生成AI検索を有料化する!?広告収入依存からの脱却とサイト運営者が取るべき対応策
2024年04月14日
米アルファベット傘下のGoogle社が、生成AIを活用した高度な検索サービスを有料化する方向で検討しているというニュースが報じられました。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)によると、Googleは既存のサブスクリプションサービスにAI検索を含めることを検討しており、実現すれば同社の中核サービスが初めて有料化されることになります。
この生成AIを活用した高度な検索サービスというのはGoogleが2023年8月30日に日本で公開したSGEのことだと考えられます。SGE(Search Generative Experience)は、Googleが開発した新しい検索機能で、生成AIによって検索体験を改善するものです。SGEは、検索されたキーワードの検索意図に沿った回答をGoogleが自動で生成します。SGEは、Microsoft Bing のような、Web検索を生成AIチャットボットとのやりとりで行うサービスです。
《関連情報》 生成AIを搭載するGoogleが登場する!SGEの脅威
Googleの収益モデル
Googleの基本的な収益モデルは、主に広告収入に依存しています。同社は、検索エンジンサービスを無料で提供することで大量のユーザーを獲得し、そのユーザーデータを活用して広告主に的確なターゲティング広告を販売することで収益を上げてきました。
具体的には、Googleは広告主に対して、Google検索結果ページやGoogleが提携するウェブサイト上に広告を掲載するサービスを提供しています。広告主は、キーワード入札システムを通じて広告枠を購入し、ユーザーがその広告をクリックした場合に料金を支払う仕組みになっています。この広告モデルは、パフォーマンス課金型広告(PPC)と呼ばれ、広告主にとって費用対効果の高い広告手法として知られています。PPCとは、Pay Per Clickの略で日本語でクリック課金型広告を意味します。
Googleは、膨大なユーザーデータを解析することで、ユーザーの検索意図や興味関心を把握し、広告主にとって最適なタイミングで最適なユーザーに広告を表示することができます。また、GoogleはDoubleClickなどの広告プラットフォームを通じて、他のウェブサイトやアプリ上での広告掲載も行っており、広告ネットワークの規模を拡大してきました。DoubleClickとは、2007年にGoogleが買収したオンライン広告配信サービスのことで、バナー広告(ディスプレイ広告の一種)の配信で大成功を収めたサービスのことです。
加えて、Googleは無料のサービスを多数提供することで、ユーザーのGoogleエコシステムへのロックインを図っています。ロックインとは、利用中のサービスや製品をほかの同種の製品やサービスに変えづらい状態のことを指します。 IT分野では「ベンダーロックイン」と呼ばれ、特定の企業や製品に依存したシステムを構築した結果、他社製品への切り替えが難しくなる状態を指します。
Gmail、Google マップ、YouTube、Google ドキュメントなど、様々なサービスを無料で提供し、ユーザーの利便性を高めることで、自社サービスへの依存度を高めてきました。これにより、ユーザーデータの収集とターゲティング広告の精度向上につなげています。
Googleは、このような広告モデルを軸に、イノベーションを続けることで成長を遂げてきました。検索アルゴリズムの進化、モバイル端末への対応、動画広告の強化など、時代の変化に合わせて常に新たな技術と広告ソリューションを開発してきました。その結果、Googleは世界で最も利用されている検索エンジンとなり、インターネット広告市場で圧倒的なシェアを獲得するに至っています。
他のGAFAMの事業モデル
今回のGoogleの動きはある意味自然なものだと言えます。何故なら、Google以外のGAFAMと呼ばれる企業はすでに広告収入に頼らない事業モデルを展開し大きな成功を収めているからです。GAFAMとは、Google、Apple、Facebook(現Meta)、Amazon、Microsoftの頭文字を取った5つの巨大IT企業の総称です。Google以外のGAFAMのビジネスモデルは次のようになっています。
1. Appleの事業モデル
Appleは、ハードウェアとソフトウェアを自社で設計・開発し、統合的なエコシステムを提供することで収益を上げています。iPhone、iPad、Macなどのデバイス販売が主要な収益源であり、iTunes StoreやApp Storeを通じたコンテンツ及びアプリの販売、iCloudなどのサブスクリプションサービスも提供しています。プレミアム価格戦略と高いブランド力で高収益を維持しています。
《Appleが提供するサブスクリプションサービス》
・Apple Music
音楽ストリーミングサービス。7000万曲以上の楽曲を広告なしで聴くことができる。
・Apple TV+
オリジナルのTV番組や映画を提供するビデオストリーミングサービス。
・Apple Arcade
モバイルゲームのサブスクリプションサービス。広告や追加課金なしで100以上のゲームをプレイできる。
・Apple News+
人気の新聞や雑誌を読み放題できるサービス。300以上の出版物にアクセス可能。
・Apple Fitness+
ワークアウトビデオとトレーナーによるパーソナルトレーニングを提供するフィットネスサービス。
・iCloud+
クラウドストレージサービス。写真、動画、文書などのデータを保存・同期できる。プライバシー保護機能も含む。
2. Meta (旧Facebook)の事業モデル
Metaは、Facebook、Instagram、WhatsAppなどのSNSを無料で提供し、ユーザーの行動データをを取得し活用した広告収入で収益を上げています。広告主は、ユーザーの属性や行動データに基づいたターゲティング広告を配信できます。
《Metaが提供するサブスクリプションサービス》
・WhatsApp Business API
ビジネス向けのWhatsAppメッセージングサービス。顧客とのコミュニケーションを効率化し、自動化することができる。
・Workplace
企業向けのコラボレーションおよびコミュニケーションプラットフォーム。社内のチームや部門間のつながりを強化し、生産性を向上させる。
・Meta Quest+
バーチャルリアリティ(VR)ゲームおよびアプリのサブスクリプションサービス。人気のVRタイトルやアプリに広告なしでアクセスできる。
・Meta Verified
Facebookおよび Instagramアカウントの認証サービス。認証バッジ、追加セキュリティ機能、優先サポートなどの特典が含まれる。
・Horizon Workrooms
バーチャルリアリティ(VR)を活用したリモートワークソリューション。没入型のバーチャルオフィス環境で、チームとのコラボレーションやミーティングを行える。
3. Amazonの事業モデル
Amazonは、オンラインショッピングモールを運営し、物販での収益を上げると同時に、出品者から手数料を収受しています。また、Amazon Prime会員向けのサブスクリプションサービスや、クラウドコンピューティングサービスのAWS(Amazon Web Services)も提供しています。Kindleなどのデバイス販売やデジタルコンテンツの販売も行っており、総合的なエコシステムを構築しています。
《Amazonが提供するサブスクリプションサービス》
・Amazon Prime
お急ぎ便、お届け日時指定便などの配送特典に加え、Prime Video、Prime Music、Prime Readingなどの特典が含まれる総合的なサブスクリプションサービス。
・Amazon Music Unlimited
1億曲以上の楽曲を広告なしで聴くことができる音楽ストリーミングサービス。Prime Musicよりも多くの楽曲が利用可能。
・Kindle Unlimited
200万冊以上の電子書籍、マンガ、雑誌が読み放題になるサービス。Kindle端末だけでなく、スマートフォンやタブレットでも利用可能。
・Audible
オーディオブック(音声書籍)のサブスクリプションサービス。50万冊以上のオーディオブックが聴き放題。
・Amazon Kids+
子供向けの絵本、教育アプリ、ゲーム、動画などのコンテンツが利用できるサブスクリプションサービス。年齢に応じたコンテンツが提供される。
・Amazon Business Prime
ビジネス向けの配送およびサービス特典を提供するサブスクリプションサービス。業務用品の割引や、複数ユーザーでの購入管理機能などが含まれる。
・AWS(Amazon Web Services)
クラウドコンピューティングサービスのサブスクリプション。ストレージ、データベース、分析、機械学習などの各種サービスを提供。
4. Microsoftの事業モデル
Microsoftは、Windows OSやOfficeなどのソフトウェアライセンス販売で収益を上げてきましたが、近年はクラウドサービスに注力をしています。Microsoft 365、Office 365、やMicrosoft Azureなどのサブスクリプションサービスを提供し、法人向けのソリューション販売も強化しています。また、ゲーム機Xbox関連の収益も大きな割合を占めています。
《Microsoftが提供するサブスクリプションサービス》
・Microsoft 365
Word、Excel、PowerPointなどのOfficeアプリケーション、クラウドストレージ、メール、ビデオ会議ツールなどを含む包括的なサブスクリプションサービス。
・Office 365
Word、Excel、PowerPointなどのOfficeアプリケーションとクラウドサービスを提供するサブスクリプション。Microsoft 365の一部の機能が含まれる。
・OneDrive
クラウドストレージサービス。ファイルの保存、同期、共有が可能。Microsoft 365およびOffice 365に含まれるが、単体でのサブスクリプションも可能。
・Xbox Game Pass
Xboxおよび Windows PC向けのゲームサブスクリプションサービス。100以上のゲームタイトルが追加料金なしで遊び放題。
・Xbox Live Gold
オンラインマルチプレイヤーゲームや毎月の無料ゲームなどの特典を提供するXbox向けのサブスクリプションサービス。
・Microsoft Azure
クラウドコンピューティングプラットフォームのサブスクリプション。仮想マシン、ストレージ、データベース、IoT、AI などの各種サービスを提供。
・Microsoft Intune
クラウドベースのエンタープライズモビリティ管理(EMM)サービス。企業のデバイスやアプリケーションの管理、セキュリティ保護を行う。
・Microsoft Dynamics 365
CRM(顧客関係管理)とERP(企業資源計画)のクラウドサービス。販売、カスタマーサービス、財務、サプライチェーン管理などの機能を提供。
これらの企業は、それぞれ異なるビジネスモデルを持ちながらも、共通してデジタル技術を活用した革新的なサービスを提供し、ユーザーのデータを活用することで高い収益性を実現しています。また、自社のエコシステムを構築し、ユーザーをロックインすることで、強固な競争優位性を維持しています。現在、AI やIoTなどの新たな技術を取り込みながら、さらなる事業領域の拡大に取り組み、収益モデルを強化しつつあります。
Googleは確実に広告収入に依存するビジネスモデルからの脱却を目指している
このようにApple、Meta、Amazon、MicrosoftはGoogleのように広告販売の収益に依存することなく、ハードウェアの販売、EC、ソフトウェアライセンス、コンテンツのサブスクリプションサービスといった多様な収益源を持っています。
実はGoogleはすでに次のような有料サブスクリプションサービスを提供して、広告以外にも収入があります。
《Googleが提供するサブスクリプションサービス》
・Google One
追加のストレージ容量や特典を提供するサブスクリプションサービス。Google ドライブ、Gmail、Google フォトの容量を拡張できる。
・YouTube Premium
広告なしでYouTube動画を視聴できるサブスクリプションサービス。オフライン再生、バックグラウンド再生、YouTube Originals(オリジナルコンテンツ)へのアクセスも可能。
・YouTube Music Premium
広告なしで音楽が聴き放題の音楽ストリーミングサービス。オフライン再生やバックグラウンド再生も可能。YouTube Premiumに含まれる。
・Google Workspace(旧G Suite)
Gmail、Google ドライブ、Google ドキュメント、Google スプレッドシート、Google スライド、Google Meetなどのビジネス向けアプリケーションを提供するサブスクリプション。
・Google Play Pass
Android向けのアプリとゲームのサブスクリプションサービス。広告や課金なしで多数のアプリやゲームを利用できる。
・Fitbit Premium
Fitbitウェアラブルデバイスと連携したフィットネスサブスクリプションサービス。パーソナライズされたワークアウト、健康指標の詳細分析などが提供される。
・Google Stadia Pro
クラウドゲーミングサービスのサブスクリプション。高品質でゲームをストリーミングでき、無料ゲームや割引など特典も提供される。
・Google Cloud
クラウドコンピューティングサービスのサブスクリプション。仮想マシン、ストレージ、データベース、ネットワーキング、AI、機械学習など多様なサービスを提供。
しかし、これらの収益は全体の数十%でしかなく、収入のほとんどを広告収入に依存しているのが現状です。
今回のGoogle検索の有料化の動きは、広告販売の収益に依存するGoogleの事業モデルに大きな影響を及ぼす可能性があります。大きな影響としては次のようなものが考えられます。
1. 収益構造の変化
AI検索の有料化により、Googleは広告収入以外の新たな収益源を獲得することを模索しています。ユーザーに毎月課金するサブスクリプションモデルを導入することで、ユーザーから直接の収入を得ることができ、広告主への依存度を下げることができるからです。ただし、検索エンジンを無料で利用するユーザーの減少により、広告収入の減少が予想されます。
2. ユーザーエンゲージメントへの影響
有料のAI検索サービスを提供することで、Googleはユーザーにより高度な検索体験を提供できます。一方で、無料検索ユーザーの満足度が低下する可能性があり、他社サービスへの流出リスクも懸念されます。それによりトラフィックが減少し、ユーザーエンゲージメントも減少することが予想されます。
3. 他のGAFAM企業との差別化が困難になる
GoogleがAI検索の有料化で先行することで、他のGAFAM企業もAI関連サービスの有料化を検討する可能性があります。各社のAI戦略に影響を与え、新たな競争の局面を迎える可能性があります。特にMicrosoftは、ChatGPTを統合したBingの検索サービスを強化しており、Googleとの競争が激化することが予想されます。長年Googleの検索ビジネスでの成功を指を加えて見ていたApple、Meta、Amazonも独自のAIサービスを以前から展開しているので現在のこの混沌とした状況をチャンスと捉えているはずです。このようにGoogle以外のGAFAM企業が生成AIサービスを提供することにより、同じく生成AIを提供するGoogleとの違いが見えにくくなる可能性があります。
Googleの検索有料化は、同社の事業モデルに大きな変化をもたらすと同時に、GAFAM企業を含む業界全体に影響を及ぼす可能性があります。Googleがいかにユーザーの利便性と公平性を維持しながら、新たなビジネスモデルを構築していくかが注目されます。同時に、他のGAFAM企業がどのようにAI戦略を進化させていくのかも、今後の重要なポイントになるでしょう。
これまでGoogleを使って集客をしてきた企業がとるべき対応策
これまで、多くの日本企業がGoogleの無料検索サービスを活用してウェブサイトへの集客を行ってきました。しかし、今回のニュースを受けて、これまでの集客戦略を見直す必要性に迫られています。これまでGoogleを使って集客をしてきた企業がとるべき対応策としては次のようなものが考えられます。
1. 自社サイトのコンテンツ充実
AI検索の有料化に伴い、無料の従来型検索だけでは集客が難しくなる可能性があります。そのため、自社サイトのコンテンツを充実させ、ユーザーにとって価値のある情報を提供することが重要です。独自のコンテンツを作成し、ユーザーの関心を引き付けることで、Google検索を介さずに直接、ウェブサイトへのアクセスを増やすことが目指せます。すでに、日経新聞デジタル版や、Amazon、メルカリ、ホットペッパー、Yahoo!JAPANなどの人気サービスはブラウザからユーザーが毎日のように直接サイトに来るため、Google検索からの流入に依存してはいません。
2. SNSマーケティングの強化
SNSを活用したマーケティングに注力することも有効です。自社のSNSアカウントを通じて、ユーザーとのエンゲージメントを高め、ブランド認知度を向上させましょう。また、インフルエンサーとのコラボレーションやSNS広告の活用も検討すべきです。国内の人気SNSであるInstagram、X、Facebook、LINEや動画プラットフォームとして人気のあるYouTubeやTikTokを本気で集客ツールとして活用しなくてはならない時代になっています。
《参考情報》 企業が集客に利用できる国内のソーシャルメディアの種類
3. メールマーケティングの活用
メールマーケティングは、ユーザーとの直接的なコミュニケーションが可能な手法です。メールマガジンを通じて、自社の製品やサービス、最新情報などを定期的に発信することで、ユーザーとの関係性を維持・強化できます。
《参考情報》 メールマーケティングとは?その仕組みと実施方法
4. コンテンツマーケティングへの注力
ブログやYouTubeなどを通じて、自社の専門性を活かしたコンテンツを発信することも重要です。ユーザーにとって有益な情報を提供することで、自社の信頼性を高め、ブランドイメージを向上させることができます。
《参考情報》 コンテンツマーケティングとは?実施の流れと打ち手
5. 他の検索エンジンの活用
Google以外の検索エンジン、例えばBingやDuckDuckGoなどを活用することも選択肢の一つです。これらの検索エンジンでも、自社サイトのSEO対策を行うことで、一定の集客効果が期待できます。
6. オフラインマーケティングとの連携
オンラインマーケティングだけでなく、オフラインマーケティングとの連携も重要です。イベントの開催やチラシの配布など、オフラインでの施策と連動させることで、相乗効果を生み出すことができます。
《関連情報》 イベントを開催するメリットとデメリット
今回報じられたAI検索の有料化の動きは、Googleのビジネスモデルに大きな変化をもたらす可能性があります。無料の検索サービスを基盤とした広告モデルから、AI検索という付加価値の高いサービスを直接ユーザーに販売するサブスクリプションモデルへの転換を意味するためです。Googleがこの新たなビジネスモデルをどのように展開し、既存の広告モデルとのバランスを取っていくのかが注目されます。
結論として、GoogleのAI検索有料化の可能性を踏まえ、サイト運営者は集客戦略の多角化を図る必要があります。自社サイトのコンテンツ充実、SNSマーケティング、メールマーケティング、コンテンツマーケティング、他の検索エンジンの活用、オフラインマーケティングとの連携など、様々な手法を組み合わせることで、安定した集客が目指せます。今回の変化を機に、自社のマーケティング戦略を見直し、新たな成長の機会としてとらえていくことが重要です。
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